風の道アートDiary

人生後半、描きたいものを、心より

もう一人のミケランジェロ

映画のおまけ。カラヴァッジョについて少し触れてみたいと思います。 

カラヴァッジョ (ミラノ1957年~ポルトエルコレ1610年)

イタリアにはミケランジェロという名を持つ天才的な芸術家がふたりいた。ひとりはあの有名な16世紀の彫刻家ミケランジェロ・ブオナローティ。もうひとりが16世紀末から17世紀初頭にかけて、その後のヨーロッパ絵画史を塗り替えるほどの革新的な作品を次々に制作し、波乱万丈の生涯を送った画家、ミケランジェロ・メリーシ・ダ・カラヴァッジョである。透徹したリアリズムと劇的な明暗法を特徴とするカラヴァッジョの作品には、いずれも官能性と深い宗教性が漂い、17世紀ヨーロッパのさまざまな画家たちに多大な影響を及ぼした。
しかし彼自身は数多くの不祥事を起こした末、殺人を犯して逃亡生活に入り、悲惨な末路を辿る。 享年38歳。
        (ジョルジョ・ボンサンティ著、CRAVAGGIOより)

 

主な作品
  1. 「果物籠」 ローマ、アンブロジアーナ絵画館f:id:cazenomici:20200723224934j:plain
    カラヴァッジョといえば最初に浮かぶのはこの作品ではないかと思います。
    17世紀の最初の静物画と呼ばれています。葡萄の粒の瑞々しさと枯れた蔦の対比によって、単なる美しい静物画ではない自然への傾注が伺えます。
    若い頃下働きしていたカヴァリエ・ダルビーノの工房では、花と果物を描く時にはいつも彼を起用したと言われています。

  2. 「病めるバッカス」 ローマ、ボルゲーゼ美術館f:id:cazenomici:20200723225152j:plain

    自画像と考えられている。地味な色彩で、美しく見せようとはせず客観的に実態を捉えています。4世紀を経た現代でも古臭さは感じません。

  3. バッカス」 フィレンツェ、ウフィッツィ美術館f:id:cazenomici:20200723223030j:plain
    その辺りにいる若者(ちょっとぽっちゃり気味の)が古代神話のバッカスのなりをしていると思われるような絵です。これもまた理想化しようとしていません。
    画面左下の酒壜には顔が映っているところが描かれていて細密描写に驚きます。

  4. 「メドゥーサの首」 同上
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    私はウフィッツィ美術館でこの絵を観ました。が、特に好きではないグロテスクな絵ということで、じっくり鑑賞した覚えがなく、すっかり忘れていました。
    その折、美術館内の郵便局にお勤めのイタリア人女性に親切にしていただき、その方の勧めで現地から自分に宛てて送ったのがこの絵葉書です。 

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    メドゥーサの首、彼女のチョイスです。自分ではこれは選ばないだろうというシロモノ。蛇が気持ち悪くて今でもじっくり見られません。

  5. そして今回の「キリスト降誕」 パレルモ、サン・ロレンツオ聖堂旧蔵
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    正式には「聖フランチェスコと聖ラウレンティウスのいるキリストの降誕」
    この絵の構図は他のものと比べてあまりうまく処理されていないとする見解がありますが、静謐で内省的な雰囲気が荘厳です。

 ここにあげたもの以外にも、有名な作品としては、「エマオの晩餐」、「洗礼者ヨハネの斬首」、「キリストの埋葬」などがあります。
イタリア絵画史における3人の偉大な改革者のなかで、カラヴァッジョは他の2人、ジョットとマザッチョとは対照的だったとされています。ジョットがふつうの画家であり、マザッチョが善良で無欲な望ましい人物、そしてカラヴァッジョは粗暴で暗黒な側面を持った画家であると。
地色と背景には必ず黒を使っており、陰鬱な魂の表れのようでもあります。
暴力沙汰の事件で投獄され、マルタ島シチリア島へと流されていますが、その間にも多くの作品を描いています。若くして才能を認められたにもかかわらず、順当な生活を送れなかったことは自業自得としか言いようがありません。もし、彼が性格的に穏やかで平凡であったら、どんな絵を描いていただろうか? あの明暗の強烈な過激な絵は生まれなかったのではないか? と思うと個人的な好き嫌いはともあれ、その非凡な個性も才能の一部であったと言えるでしょう。
レンブラント、ベラスケス、フェルメールにも影響を及ぼしたと言われており、いずれも光の画家として有名ですが、光を劇的に捉える技法は確かにカラヴァッジョに始まっていると思います。
彫刻家のミケランジェロ・ブオナローティがあまりにも有名で、私も以前はこの2人の絵を混同していた時期がありました。今までカラヴァッジョ作品について、果物籠の静物画以外は特に関心がなく、美術館で目にする機会があったのに素通りしていたのが残念です。
今回の映画でもう一人のミケランジェロを、美術史上の重要な人物として再確認することができました。